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「わかんないんだもん」
「カカシ、こっち見ろ」
引き下ろされたままの口布のラインに沿って滑らかな肌についた傷を撫でると、伏せた瞳から涙が頬を伝った
。
「だって、…だって久しぶりに帰って来たと思ったらオビトってば見合いするっていうし、修業見てくれるって言ったのに、…くノ一達と話してる方が楽しそうだし、俺嫌われたく無いのに迷惑ばっかりかけて、そしたら、心臓が苦しくなっ…」
無意識に押さえている左胸の手をそっと包む。
「カカシ」
「おれっオビトと一緒に居たい。ずっと一緒に居たい」
「バカカシ。別にあんな事しなくても一緒に居ていいんだよ」
「ちが…う、俺、嬉しかった。オビトにも俺の事抱きたいって思って欲し…」
「思ってる」
泣きべそをかくカカシの言葉を遮る。
「今さらなに言ってんだ。思ってるに決まってるだろ」
力が入って硬くなってしまっている身体を抱き締めてさすってやる。
「俺がどれだけ我慢してると思ってんだ、お前」
言葉だけでは信じられないと、訴えるの瞳。
日は既に落ち、辺りは薄暗くなりつつある。舞い散る桜の花びらと露出したカカシの肌だけが薄っすらと光を放っているようだった。
吸い寄せられるように、二の腕の柔らかい肉に口付け、舌を這わせる。
体臭の薄いカカシの匂いが鼻腔を擽り、僅かに残っていた自制心が崩れ落ちる。カカシの太腿に巻きついた布を取り上げ、下履きの上から性器を撫でて隆起を確かめる。
「…ッ、オビト…」
「おっまえ、また…」
指先の感触に、もしやとカカシの前を寛げると面積の少ない申し訳程度にしか意味をなさない下着が見える。そして、そこから窮屈そうにはみ出てしまっている性器も。
「頭、出ちまってるじゃねぇか」
「やっ…!」
隠そうとしたカカシの手を遮る。
「嫌ならしない」
試す様にカカシに告げると、下唇を薄く噛んで、下腹まで覆うぶかぶかのベストをアンダーごと、自ら捲り上げた。
「や、じゃない…から、して。オビト」
ゴクリと喉が鳴る。下着に沿って手を滑らせ、他の部分よりも厚い肉に指を埋める。
暗部の録でも無い輩共から仕入れたのであろう下着が紐で結ばれるタイプのモノである事に心の内で舌打ちをした。
(俺の好みが紐ぱんって事かよ)
「カカシ、こんなの着けて本当に俺が喜ぶと思ったのか?」
「んっ…あ」
「脱がすぞ」
コクリと顔の動きで答えるカカシは、尻を揉んだだけで上手く喋る事が出来ないようだった。
腰の横に下がる白い紐をひくと、簡単に解けてしまう。
「今度、俺がもっと似合うやつ買って来てやる」
煽るつもりが嬉しそうに目を眇めたカカシに逆に煽られる。
欲望のままに暴れ出しそうになる気持ちを抑えて、母音を模るカカシの唇に自らのそれを重ねて甘い吐息を吸い込んだ。
軽く啄まれるだけで身体が砕けそうになる。
ベストから感じていた僅かなオビトの匂い。上昇した体温の所為だけでは無く、オビトとの距離が狭まる程に濃くなるその彼自身の匂いに胸が締め付けられた。
砂糖菓子のように甘い、いつもの口づけが、少しの強引さと優しく逃げ場を奪う仕草に、さらに糖度を増す。
(怖くない)
やわやわと尻を撫でる手つきも、普段よりは数倍粘ついたものだったけれども、それは俺の反応に合わせるように慎重だった。
キスをしたまま身体だけを返されて、桜の木の幹に手をつくような体制になる。
隠すことなく腰に当てられたオビトの熱に驚き、目を開くと視線がぶつかった。
前髪を揺らすオビトの呼吸が湿って、苦しげに歪んだその表情も、ぞくぞくとした気分を引き出す。
「これで信じるか?」
視界がすべてオビトの端正な顔で埋め尽くされる。死ぬほどカッコ良くてくらくらと眩暈を覚えながらも、まだ足りない、そう思った。
「…もっと」
「仕方ねぇな」
少し困ったように笑い、離れていくオビトを追いかけて手が伸びる。
「いっ…!」
木の幹に付いていた方の手が擦れて火傷で出来た傷が痛んだ。
「大丈夫か?」
後ろから身体を引かれて、次の瞬間には突き放される。困惑の中、桜の木にぶつかると思ったのに頬に、予想したものとは全く違う感触が触れる。
「ちゃんと掴まえとけよ」
「分かってるって」
頭上で飛び交う声に恐る恐る顔をあげる。もう一度聞きたい、もう一度会いたいと夢見まで見た自分と1つしか歳の変わらないオビトの姿がそこにはあった。
「あと、ちゃんとカカシの顔、見とけ」
ふわりと回された腕に身体を抱き留められ、自分と幾分も変わらない背丈のオビトが了解と後ろにいるオビトに笑いかける。
「な…なんで、オビト!?」
「そっちの方が顔が良く見えるだろ。汚れるといけねぇからズボンも脱がすぞ」
脚を持ち上げられスルリと下だけ全て脱がされてしまった姿を見られている事に羞恥で目の前が赤く染まる。
頭ではオビトの作った影分身に変化を加えた姿だと分かっているのに、心がついて行かない。
足元で脱がしたズボンを脇に寄せたオビトが内腿に唇を這わせる。リップ音を立てながら徐々に上に上がってくる。
「ひ…っん」
尻の溝に入り込んで来た鼻先に思わず声が漏れてしまう。恥ずかしい、恥ずかしい。
「見、ない…で」
背けたはずの顔も覗き込んでくる幼いオビトに崩れ落ちそうになる身体を抱え直され、身体中の血液が逆流しているかのように肌がざわざわと泡立つ。
「可愛い顔見せろよ」
「ふっ…、っん…ダメ、ぁ…っんっん」
オビトが臀部を下から押し上げるようにして甘噛みしてくる。
自分を抱き留めてくれいている腕の中で、愛撫に揺れてしまう身体が居たたまれず、声だけでも我慢できないものかと唇を噛んだ。
噛みしめ過ぎて色を失ったカカシの唇を軽く啄む。濡れた感触に見開かれた瞼。次いで見目にわかる程に硬直してしまう。
もう一度、顔を近づけると今度は顎を引いて背を反らせる。嫌なのかとカカシの名を呼ぶと、垂れた眉尻の下で瞳が不安げに揺れている。
「どうした、カカシ」
「オビト、…俺、おれ…んあっ」
何かを伝える為に開かれた唇が、嬌声となり、再び閉ざされてしまう。
肩を引き寄せてカカシの柔らかな唇が傷つかないように、下唇に触れ綻ばせ、薄く開いた隙間から内側を舐める。
「ぁ、ダメ…声、でちゃう」
「いいじゃん。聞かせろよ。カカシの感じてる声、興奮する」
「っ…や、はずかし…っ」
戦慄く唇が酸素を求めて開かれた瞬間を狙い澄まし、覗いた赤い舌を掴まえてそのつるりとした感触に陶酔する。
粘膜の接触にカカシの身体がビクリと跳ね、縮こまってしまった舌をゆっくりと時間を掛けて引き出した。
震える舌を舐める度にビクビクとカカシが腕の中をずり落ちる。