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柔らかく開かれたカカシの唇を味わいながら、ベストの下から潜り込ませた指先を薄い胸板に這わせる。
いつもなら恥じらい、嫌がるはずのカカシが大人しくしている事を不思議に思いながらも指先に神経を集中させた。
(肺は損傷してなさそうだな…)
ホッと胸をなで下ろすも、今度は火傷の方が気になる。
応急処置をしただけの火傷を家に帰ってちゃんとしてやりたかった。
(跡が残らなきゃいいけど)
腕を引き抜こうとした時、ベストの上からカカシの左手に阻止される。
「やだっ。やめないで」
「…カカシ?」
離れた唇を再びカカシの方から重ねられて、わずかな驚きとその柔らかなでありながら欲情をはらんだ舌使いに陶酔感が走った。
いままでのカカシとはあまりに違う触れ方に、キスの合間に問いかけるように視線を送る。
それに答えることなく、口内を舐める舌を止めないカカシに、動く舌を掴まえて軽く噛んでやると細い身体が腕の中で震えた。
「カカシ、帰って火傷の手当てしないと…」
「俺、火傷より、ココが痛い」
ベストの上からカカシの両手が俺の手を引く。左胸の少し下。普段よりも少し早目の鼓動が伝わってきた。
「オビト…手当して」
甘えろと言ったのは自分で、ここでカカシを突き放すことは出来ない。それよりも潤んだ瞳で見上げられ、いたいけさを増していくカカシの姿に溜飲が下がった。
「手当って、どうすりゃいいの」
首筋までも桜色に染まったカカシの心臓は壊れてしまうんじゃないかという程に俺の掌の下で跳ね始める。
「…いっぱい触って、俺の事、…可愛がって」
細い身体を力いっぱい抱きしめてやると、カカシの口からはぁ、と熱を含んだ吐息が零れ耳をくすぐった。
「まだ、痛い?」
「い…たい…」
手の届く所を、頭の先から全て余すところなく撫でる。
「全部。全部触って」
アンダーの中に手を忍込ませ、滑らかなカカシの背中に触れるとビクリと跳ねる。反らさせた背骨の数を数えるように指先を滑らせ、上がった顎から首筋に唇を這わせた。
肩口に掴まるカカシの手にギュッと服を引っ張られる。
「オビト、…この前してくれたヤツ、して欲しい」
「この前?」
火傷していない方の手が腿に置かれゾクリとする。
「…脚に挟むヤツ」
そう言ってカカシは遠慮がちに俺の分身に触れた。
 
軽く触れるだけのつもりが、反応しかけていたオビトの性器を撫でるような形になってしまった。一瞬遅れてオビトの手が俺の手を持ち上げる。
「アレは…、どうしてもって時だけだ」
取ってつけたようなオビトの言い訳に、これ以上ないと思う程悲鳴を上げる心臓に叱咤し、掴まれた手に指を絡ませる。
「いま俺、どうしてもって時だよ?」
一度箍が外れてしまえば、止めることは出来ない。はしたないと思われてもいい。自分の内腿を濡らしたオビトの熱さを思い出し身体がぶるりと震えた。
「カカシ、無理すんな。震えてんじゃねーか」
愛おしさを宿した目でそっと瞳を細めたオビトが絡めた指に口づける。
違う。そうじゃない。オビトの情欲に溶けた、炎のように揺らめく瞳で自分を求めて欲しい。もう一度あの幸福感を感じたい。何て言えばオビトに伝わるんだろう。
高ぶった感情にジワリと目尻が滲む。
「帰るぞ」
ふわり身体が浮いてオビトの肩に担ぎあげられてしまう。
「やだっ!降ろしてよ、オビト!やだってば」
「暴れんな」
ベシッと乱暴に尻を叩かれるも、敏感になっていた身体には甘く響く。
「ッ…」
「こんだけ勃ってたら歩けねぇだろ。帰って火傷の手当てしたら、ちゃんとヌいてやっから」
「オビトのバカ。いくじな…ッし」
お返しとばかりに叩かれた所を鷲掴みされ声が詰まった。
「二週間も放っといたから溜まってんだろ」
「ちがうもん」
「なんだ、一人でしたか」
答える代りにオビトの背中を殴る。俺がガリガリのチビだからオビトは本気で相手してくれないのだろうか。
こんなにも胸が痛むのに。逆さになった世界がぼやける。
「俺、オビトとセックスしたい」
どうせ言ってもはぐらかさせるだけだろうと半分やけくそだった。
「セッ…!…あのな、お前にはまだ早い」
「まだ早いって、どれくらい?いつまで待てばいいの?アッチの世界に戻ったら、オビト居ないんだよ。俺どうしたらいいの」
オビト顔が見えない分すらすらと言葉が口を衝いて出る。
「カカシ、何焦ってんだ?俺が見合いなんてするっつったからか?」
「あせってない」
「じゃあなんで。急にどうした」
「…わかんない」
目尻から涙が地面に落ちる。土の上に無数に散らばる桜の花びらに、先ほどまで居た場所まで戻ったのだと知った。体勢が傾き、オビトの肩から降ろされる。
「自分の事なんだから、わかんねーって事ないだろうが」
真正面から顔を覗きこまれて、その眼差しから逃げるように目を伏せた。