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ピンポーン
呼び鈴の鳴る音にオビトがむくりと起き上ります。
時計を見るとまだ朝の6時半でした。
(誰だ…こんな時間に)
隣で起きているのに動く気配のないカカシを跨いでベットから出ます。
昨夜よりはだいぶましに歩けるようになっていました。
「オビト…出るなら、服着て」
カカシに言われて何も身に着けていないことを思い出し、落ちている服を引きずって廊下へ出ます。
寒さにぶるりと震えながら服を羽織ると、もう一度鳴った呼び鈴に返事を返します。
袖を通してカカシのアンダーを持って来てしまった事に気づきました。しかももう一枚は自分のアンダー。
(まぁ、見えないし、いっか)
顔を擦って、扉を開くと袴を身に着けたテンゾウが深々と頭を下げていました。
「明けましておめでとうございます!カカシセンパ…イ…」
尻すぼみになるテンゾウの言葉に少し笑いながら、明けましておめでとうと返します。
「今呼んでくるから入ってろ」
「いえ…、あ、まだ寝てるんでしたら大丈夫です。これ…どうぞ」
御神酒と餅です、と袋を渡されます。
(御神酒…コイツもか…)
カカシのアンダーだけを羽織ったオビトにテンゾウは目のやり場に困り早々に、失礼しますと踵を返します。
「毎年持って来てんだろ、ちょっと待ってろって。起きてるから」
「えっ…でも…」
テンゾウの言葉を聞かずにカカシを呼びに戻ります。
その後ろ姿にテンゾウはギクリとします。白いまだ華奢な太ももに無数に点けられた赤い斑点。
(アレッて…、うわっどうしよう。カカシ先輩に殺されちゃうかも…おれ)
テンゾウは今すぐ帰ろうかと青くなりました。
「テンゾウ来てるから挨拶して来いよ」
部屋に戻るとカカシは既にズボンを履いてうろうろしていました。
「うん。ねぇオビト、おれの上着知らない?」
「あぁこれ?間違って、着た」
その声にバッと振り向くとオビトを見て唖然とするカカシ。
「ちょっと!その恰好で出たの…」
「あ、…あぁ」
駄目だったかなと自分の姿を見下ろします。
カカシはその横を風のようにすり抜けるとテンゾウの元に早足で向かいました。
「あ、あけましておめでとうございます!!」
テンゾウはカカシの姿が視界に入るとすぐさま叫びました。
「見た?」
ずんずんと近づきながらカカシがテンゾウに問います。
アンダーも口布も付けていないカカシに顔が引き攣りました。ぶんぶんと頭を振ります。
「見てません!何も見てません!!」
「見たんでしょ。正直に言いなさいよ」
「いいえ!見てませんってば」
じとっと睨まれて、やはり帰れば良かったと作り笑いを浮かべます。
「ちゃんと挨拶しろよー」
姿は見えませんが、届いたオビトの声にしぶしぶカカシが口を開きます。
「明けましておめでとう。今年もよろしく」
「よろしくお願いします」
もう一度深々と頭をさげ、新年のあいさつをするテンゾウ。
顔上げると、早く帰れという風に腕を組んだカカシに見下ろされました。
その時に脇腹に出来た傷に目が行きます。
「これ、ぬり薬です。使ってください」
袖からおずおずと薬を取り出したテンゾウに、ちょっと冷たくしすぎたと反省したカカシがありがとうと言い受け取ります。
「…あまり激しい運動はしないように」
少し潜めた声で言われて、今度はカカシの顔が引き攣りました。
顔を上げるとテンゾウは既に後ろ手に開けた扉の向こう側へ飛び退いています。
「それから、姫はじめは2日以降がいいらしいですよ」
絶句するカカシを置いて、でわと扉は閉められました。
クククッと後ろから押し殺した笑い声が聞こえます。
「…オビト」
「随分良い後輩だな」
「…まぁね。可愛さ余って憎さ100倍ってやつ?」
「おっ!金粉入りだ!」
テンゾウの持ってきた御神酒を掲げて喜ぶオビト。腕を上げるとずり上がった裾からお尻が見えそうです。
「オビト、なんか履いて」
後ろから抱き着いたカカシが…ムラムラしちゃうと耳元で囁きます。昨夜の続きを感じさせる手つきにオビトがストップを掛けました。
「カカシ、出掛けるぞ」
「…初詣なら、明日にしようよ」
「初詣じゃない」
オビトの真剣な眼差しに思い当たります。
「リンにも新年の挨拶しなきゃだね」
「あぁ」

朝ごはんの代わりにテンゾウの持って来てくれたお餅を焼くことにします。
レンジの中で膨れていくお餅を眺めているとカカシに呼ばれました。
「オビト、ちょっと来て」
「んー?」
焦げるなよと餅に向かってつぶやくと、カカシの元に向かいます。
そこには広げられた2着の袴がありました。
「これ、オビトの分ね」
黒い方の衣紋付を指さされました。
その袴には、うちはの衣紋が描かれています。
「…カカシ」
「新年の挨拶だからビシッと決めないと」
「…お前、昔からかっこつけだったもんなぁ」
「こういうのは恰好が大事なの」
悪態をつきながらも、ちゃんと準備してくれていた事にオビトの胸がきゅうっと締め付けられました。
「ありがとう」
「…どういたしまして」
『ッチーン』
ちょうど二人の唇が触れた瞬間にレンジの音が鳴り、顔を見合わせて吹き出しました