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さすがに暗部の格好のまま日中に出歩かせるのもなんなので、カカシに俺のベストを貸した。
ぶかぶかのベストから伸びた白くすらりとした腕が昼の日の中でも異様に艶めかしく感じる。
作ってもらったおにぎりを頬張りながら横目でカカシを見やると、ぶかぶかなのが気になるのか先程から襟を触ったり、肩口を気にしたりして落ち着かないようだった。
「帰りにちゃんとしたサイズの買ってやるよ」
きょとんとした表情で顔を上げたカカシが、ふるふると首を振る。
「…いらない」
「なんだよ。遠慮すんなって」
「俺、これが良い」
カカシは目を閉じて、すんすんと襟口に鼻を擦り付ける。
「だって、オビトの匂いがする」
おにぎりを飲み込む喉から変な音がした。
「バッ…カか!嗅ぐな!!」
「いたっ!何で叩くの!ご飯粒飛んできたし!!」
「しらん!」
残りのおにぎりを全て頬張ると、のしのしと腕を捲りながら先に歩き出す。
(ムラムラしただろうが!バカカシ!)
「ちょっと、待ってよ。オビト」

ずんずんと進んでいくオビトを追いかける。
捲り上げたアンダーから除いた腕の筋肉にドキリと胸が跳ねた。
(はしゃぎ過ぎたかな)
こんな風にオビトと一緒に外出する事が無かった為、一緒に歩いていると何を話していいか分からない。
自分よりも幾分も高い視線を追う。俺の修業相手なんてつまらなくないだろうか。
本当は一日中寝ていたかっただろうに、寝ぐせは取れたもののまだ眠そうな腫れぼったい顔を見上げる。
「ね、オビト」
「あ?」
「ごめんね」
俺の言葉にしゃがみ込んだオビトは俺に視線を合わせてきた。
「なに謝ってんだ」
急に近くなった距離に、思わず後ずさると腕を掴まれ、露出した肌からオビトの掌の熱がじんわりと広がる。
オビトが生きているコチラの世界に飛ばされて、一緒に居られればそれだけで良かったはずの欲は、触れた瞬間からぐずぐずと俺を溶かした。
もっと触れて欲しい。全身でオビトを感じたい。俺は日に日に大きくなっていく欲を持て余していた。
「カカシ、ちゃんと言え」
オビトの声にハッとするも、干からびた喉はひっついてしまったたように言葉が詰まり、見つめられた瞳にある巴がユラリと揺れる様に見惚れてしまう。
自分の欲が見透かられる気がして、視線を逸らし腕を掴まれていた手を押し返しながら上手くしゃべれるように集中した。
「休み、潰しちゃって、…ごめん」
「…バカカシ。こうゆう時はごめんじゃなくてありがとうって言うの」
大きな掌がぐりぐりと頭を押してくる。
「まったく、…休みの日に付き合ってくれてありがとう、きゃるーん☆くらい言えるようになれよ」
「なにそれ」
両手を合わせてしなを作ったオビトは、バツが悪そうに笑うと俺の手を引く。
「その辛気臭い顔、辞めろって言ってんの。ほら、行くぞ」
「きゃるーんって、なに」
「いいから。忘れろ」
いつの間にか俺は笑顔に戻る。
握られた掌から伝わるオビトの熱を、取りこぼさないようにと握り返した。
「お、カカシ。桜だ!」
オビトの指さした方に視線を向けると、1本だけ周囲から浮いた桜の木が立っている。
「もう春だなー」
ズキリと胸が痛む。早くオビトに追いつきたい気持ちとは裏腹に時か経つのが怖かった。
このままずっとコチラの世界に居たい。オビトと一緒に。
「今日はあの辺で修業すっか」
俺は満面の笑顔で笑うオビトに上手く笑顔を返すことが出来なかった。