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火の国である木ノ葉の里は冬になっても雪が積もる事はありません。
12月23日。街はクリスマスの装いです。夕飯の買い出しを終えたオビトは冷える指先に息を吹きかけながら、ケーキ屋のディスプレイを眺めていました。
(アイツ甘いのダメなんだっけ…)
しかし、折角のクリスマスなんだし買っとくか…と、気後れするような可愛らしい店内へと足を踏み入れました。
久しぶりの長期任務に出ているカカシが戻るのは今日か、明日。任務に出る前にクリスマスには戻るから、ふたりでパーティしようと話していました。
甘くなく、なるべく日持ちがするようにとブランデーケーキを頼みます。

24日。任務が長引いているのか、今日もカカシは帰って来ませんでした。
任務に出る準備をして、作り置きした料理を冷蔵庫へとしまいます。
今までカカシが式も飛ばさずに任務が長引く事はありませんでした。
(何かあったのか…)
不安に思う気持ちを胸に、誰も居ない家に行って来ますと言って出掛けます。
上忍であるカカシの任務内容を他の忍が知るはずもなく、カカシの話が聞こえてくる事はありません。誰との任務か聞いとけば良かったと今になって後悔しました。
暗部での見張りの任務を終えて、家へと戻ってもカカシが戻った気配はありません。どんどんと悪い予感が大きくなって行きます。
里に戻ってからは使う必要もなかった術を使うべく写輪眼に力を込めます。
(…カカシ、何処にいる)
写し出されたものは、…闇。オビトの心臓が音を立て跳ね始めます。
(いや、まだ繋がっているという事は生きているのは間違いない)
焦る気持ちを胸に、家を飛出します。
瞳術を使っての移動はその場所を知らないと跳ません。以前はゼツが場所を教えてくれていました。
カカシを探すにも任務の内容を聞き出す必要があります。
(まずは火影か…)
ズカズカと押し入るオビトをナルトが止めに入りました。
「おい!どうしたんだってばょ!!」
「…火影に聞きたい事がある」
「ちょっ!待てってば…」
腕を掴んだオビトは泣きそうな顔をしており、ナルトが驚くと顔を背けるようにして振りほどかれました。
「…カカシが帰って来ない」
切羽詰まったような声に、ナルトが笑って優しく応えます。
「…なんだ、そんな事か…カカシ先生なら病院にいるってばよ。…てっきりオビトは知ってるもんだと思ってた」
「ッ!?」
「また、チャクラ切れでぶっ倒れたらしい…って、アレ?…オービトー?」
既にそこにはオビトの姿はありませんでした。

はたけカカシと書かれた病室の扉を開くと、真っ白なベッドの上でカカシは眠っています。
そばに近寄り心なしかいつもより青白い顔をしている頬に触れました。
(温かい…)
オビトの瞳から静かに涙が零れます。
その涙がカカシの頬に落ち、薄っすらと瞼が開きました。
「…オビ…ト?」
無言でカカシの頭を叩くオビト。
チャクラ切れで動けないカカシを良い事に何度も何度も叩きました。
「ちょっと、オビト、痛いってば」
「バカカシ、なんで…俺に教えなかった」
涙を零すオビトを見て、カカシはまた自分が失敗してしまった事に気づきました。
「ごめん。…迷惑かけたくなくて…」
お前の優しさはずれてるとまた叩かれます。
「クリスマスには戻れると思ったんだけどね…ダメだったみたい」
今日が25日だと知ったカカシが俺かっこ悪いねと笑いました。
「…かっこ悪くたって、生きてれば…生きて一緒に居られればそれで良い」
カカシの手を取り握りしめながらオビトが呟きました。
「どうしよう…まだ腕があがんなくて…」
抱きしめたいというカカシの変わりにオビトがカカシを抱きしめました。
「おかえり」
「…ただいま」

まだ退院が許されなかったカカシを残し、1人帰って来たオビトは随分と自分の中で大きくなっているカカシ存在に気付きます。
もう二度と逢えないかもしれないという想いに潰されそうになった胸の痛みを思い出し、左胸を抑えました。
(大丈夫、カカシは生きてた。おさまれ)
大切なモノを奪っていくこの忍という世界を壊そうとしたあの頃。世界は自分が中心に回っていて、月読こそが人類の救いだと思っていました。
でも所詮それは絵空事で、そこには本当のリンなんて居ない偽りの世界だと知りました。
本物のリンが想った事。カカシが背負った運命。その上でこそ生きてる意味が、理由があると。
(まだ、自分は何も残せていない。自分がここにいる証明を…。リン…カカシ…)

聖夜の星空を仰ぎオビトは思います。カカシを幸せにしたい。退院したら、沢山のキスで迎えよう。
夜空に星が一つ流れました。