Darknessdarkness


***

6
「にゃ…ッ、ぁん!」
「そんな、煽んないで。…可愛すぎ」
耳に入るのは艶に掠れた、余裕の無い声。それでも、睦言のような甘い台詞を口にする辺りがカカシだ、と思考の隅で思う。
オビトは女相手には淡白だし、男相手はアレだ。ただ黙ってやってくれ、と思った事しか無い。
(こいつが変態すぎて、俺もおかしくなったのか。)
カカシの口から降る言葉に、鼓膜も言語中枢も犯されているようで。オビトは、呆気なくカカシとのセックスに溺れていた。
「…何考えてんの、俺の事?」
疑問の形をした呼び掛けに薄らと瞼を開くと、同時に身体に埋まる熱い塊が奥より僅かに引いて、前立腺を何度も刺激する。
「にゃあああッ」
「ねぇ、俺の事考えてくれてんの?」
必死に頷いた。カカシの肩に掛かる脚が、ピクピクと震えているのが分かる。
「俺の頭の中も今、オビトでいっぱい。好きだよ、ねぇ、好き」
「はぁッ、…ああッ」
「オビトは?」
「好き…ッ、好きぃ、あぁんッ!」
喘ぎと共に自然に言葉が零れると、頭上で、笑った気配がした。
次の瞬間、脚を脇に降ろされ、見下ろしていたカカシの顔が降りて来て、キスを降らせる。それは次第にむしゃぶりつくような、唾液に塗れて唇の境目が分からなくなるような口付けへと変わった。
ぴちゃぴちゃと舌を吸われ、唇の隙間から喘ぎを漏らしながら、あぁ、食われてる、とオビトはぼんやりと思う。
カカシの手のひらがオビトの髪を優しく撫でるようにふわりと触れて、しかしその後、強く抱き締めるように頭部を固定された。
「しがみついてごらん」
カカシの肩口を押し返すように添えていた手を、おずおずと背中に回す。
「良い子」そう言ってまたちゅ、とキスを落とすと、カカシの腰が最奥まで押し入ってきた。
「ふぁ…ッ!か、カシ…ッ」
カカシはもう喋らなかった。オビトの口内を舐め回し、力強く抱き締めながら、ただガツガツと腰を進める。乱暴に引いて奥を満たす、単純な繰り返しに翻弄されて、オビトはただ喘いだ。
密着する肌が熱い。どちらのものか分からない汗が体中を伝って、ぐしゃぐしゃに縒れたシーツを濡らす。幾度か達した筈のオビトの性器はこれ以上ない程立ち上がり、重なり合う身体の間でぴくぴくと蠢いていた。
「カカシッ、カカシッ、もう…ッ!」
身動きが取れないほどに抱き締めるカカシの背中に、限界を伝える。少しでも気を抜いたら達してしまいそうで、堪えるように力を込める指先がカカシの背中を傷付けた。
「いいよ、いっちゃいな」
瞼を開くと、色違いの瞳が熱を纏って見下ろしている。白い肌から滲み出した汗がカカシの鼻筋を伝って、ぽた、とオビトの目に零れ落ちた。内部の熱が、オビトを追い詰めるように再び前立腺を擦る。オビトはカカシの身体にしがみつき、脚を開いてそれが良い所に当たるように、腰を浮かせて押し付けた。
「は、あッ、イク!」
ちかちかと瞼の裏が白熱して、ぎゅ、と全身をカカシに預けると、込み上げる射精感に締め付けるそこがカカシを包む。「く…ッ」
強く抱き締め合うと、直後に濡れた感触が二人の腹の間に広がる。同時に、オビトは身体の奥まで埋め込まれたそれが、微かに震えながら熱を吐き出すのを感じた。
「あ…、あ…ッ」
「…あー…」
脱力感が襲う。力の抜けたカカシの身体が伸し掛かり、遠慮の無い重さに乱れた息が詰まる。
「超気持ち良かった…」
「お前、重い…」
「やだぁ、そんな事言わないでよ♡」
荒い息を吐きながらも、軽口を叩くカカシにデコピンでもしてやろうと、見上ろすカカシの顔に指を這わすと、じっとりと濡れた額に銀髪が張り付いている。デコピン用にスペースを作るつもりで丁寧にそれを掻き分けるオビトを、カカシが愛おしそうに見下ろしていた。
「…何だよ」
「ん、好きだなぁって」
「変な事言うな」狐の形に指を折り、爪弾く。
「いったーい!…オビトだって、好きって言ってくれたじゃない」
「それは…!」
「オビトってぇ、任侠の世界の人でしょ。男に二言は無いよねぇ?」
「……」
オビトの黒髪を撫でながら、カカシは拗ねたような表情で呟く。
「…二言はねーよ」
オビトが、視線を逸らしながらぶっきらぼうに口を開く。カカシは満面の笑みで抱きつくが、反撃する気力も無く、そのままにさせている。
「お前って、犬みてぇ」
「ふふ、そんなの初めて言われた。俺はオビトだけの忠犬だから」
オビトは、ぼんやりと忠犬の定義に思考と疑問を馳せる。
「オビトはね、ミーアキャットみたい」
「!?」
「見た目は可愛いのに、あいつらサバンナのギャングって呼ばれてるんだよ。ね、オビトみたいでしょ?」
「…どこが」
溜息に乗せてうんざりした表情のオビトに、わんわんと犬の鳴き真似をしながら鼻や耳を食んでくるカカシ。
「ばか、やめろって…」
(忠犬ってより、駄犬って感じだよな…)
ひとり納得して、身を捩ると未だ埋め込まれたカカシが、中でずるりと滑り身をすくめる。
「…っ」
「なぁに、…もう一回、する?」
反射的に締め付けてしまっただけのオビトを、揶揄うようように腰から臀部にかけてカカシの手が撫でてくる。
一度収縮したそこはオビトの意思とは逆に、咥え込んだカカシにまとわり出し、収まりかけていた熱がぶり返してくる。
空気を求めて開いたオビトの唇をカカシが食む。
「ふっ…んにゅ…っ」
ゆったりと唇を舐め吸われ、目的を持ったカカシの手がオビトの身体に甘い痺れを加えてくる。
集まった熱を持て余しジクジクと痛む性器を抑えた。
「も、…むり…っ」
合わせられた唇の隙間から訴えると、芯を取り戻しつつあったカカシがオビトの首筋に顔を埋める。
「…残念」
カカシは一度、最奥まで押し上げると、息を吐いた。
「…忘れないでね、俺の」
挿入の深さをオビトに教えるように腰に当てられた手で、拡げられている中の位置にカカシの指が押し当てられる。
降りて行く指と共にゆっくりと引き抜かれ、勝手に震え出す腰を浮かせ、漏れてしまいそうになる声を堪える。
「…んっ」
長い時間をかけて開かされていた後腔が空虚に蠢き、辿ってきた指先に縁を撫でられると、ビクリと腰が跳ねた。
「ごめんね。ちょっと腫れちゃったかも」
股の間を覗こうとするカカシに、慌てて脚を閉じると鈍い痛みが走った。
「っいー」
ついでに既に筋肉痛のようなものを股関節に感じ、起きかけた身体をベッドへと戻す。
「…最悪」
閉じられた膝を撫でているカカシはニヤニヤと鼻の下を伸ばしている。
「…なんだよ」
「ふふ、本当に初めてだったんだなぁって思って…さ」
シーツの上に放り出されたオビトの手にカカシの指が絡みつく。
「このままじゃ起きた時大変だから、お風呂はいろ」
「やだ…だるい。寝る」
ドロのように重い身体を抱き起こされて、寝てて良いよというカカシに横抱きにされた。
軽々とオビトを抱えたカカシは足を使って扉を開いて行く。
「………ほんと、最悪」
「くすっ。オビト軽いね。ちゃんと食ってる?」
「食っても太らない体質」
「なにそれ、女の子が聞いたら怒られるよ」
湯船のヘリに降ろされ、湯を張るカカシを眺めていると日が昇っている事に気付いた。
「今、何時?」
「6時位かな」
「6時…、そろそろ帰んねぇと…ふぁあ」
大きな欠伸をしながら、オビトが眠そうに目を擦る。
シャワーのコックを捻ったカカシに手を引かれて立ち上がると、降り注ぐ湯の中で、正面から抱き締められた。