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風呂から上がるとカカシは俺のベットの上で読書をして寛いでいた。
「服くらい着ろよ」
「んー暑い」
声だけで応えるカカシは、視線は本に向いたまま服を着る気はないらしい。ベットに膝をつくとギシリとスプリングを軋ませて寝そべるカカシの上に圧し掛かる。
「ちょっと重いよ、オビト」
頭を沈めた寝具からは清潔な香りがして、俺が帰ってくる前にシーツやらを替えてくれていた事をありがたく思った。
「うわっ、ちょ、くすぐったい!」
手触りの良いカカシを捕まえて、ゴロンと体制を入れ替え寝床を確保する。
「お前、任務は…?」
「夜。ねぇ、この本面白いの?」
片目を開けてカカシの読んでいる本を取り上げタイトルを確認する。
そのまま閉じてイチャイチャパラダイスの上巻を枕元に投げる。
「あー、読みかけなのに」
体制を変えたカカシが腕を伸ばすのを遮り引き戻した。
「お前には、まだ早い」
「…むぅ」
大人しく腕の中に収まったカカシの髪が肩をくすぐる。触れた程よい体温と重みが心地良く、睡魔に身を任せ再び瞳を閉じた。
「あの本、本当に自来也様が書いたの?なんか、信じられない」
「強い男には、女の影が、付き物なんだよ…」
濡れたままで額に張り付く髪を弄っていたカカシの指が頬に移動する。
「任務大変だった?」
体温の低目なカカシのひんやりとして気持ちがいい手が頬から首筋に鎖骨にと下がっていく。
「ふつー」
「さっき隠したの見合い写真?」
胸の上でその手を摑まえた。
(しっかり見てたのか)
「…めざいといところは一緒なのな」
「結婚するの?」
「んー?なに心配?」
薄目を開けてカカシを見やると思いのほか神妙な顔をしていて、ニヤつきそうになった頬を引き締める。
「別に…」
顔を背けたカカシが可愛くて、ガシガシと頭を撫でてやるとますますむくれた。
「もう、やめてよ」
払いのけられた手をそのままカカシを抱きしめるように背に回して、柔らかい銀色の髪に頬を押し付ける。
「カカシがやめて欲しいならしない」
合わせた胸から可哀想な程にドキドキと早鐘を打つ心臓の振動が伝わって来て、見えない事を良いことにニヤつく頬の筋肉をそのままにする。
背中を撫でてやるとカカシは詰めていた息を静かに吐き出す。
「…やだよ」
自分の気持ちをあまり外に出さないカカシは、他人に自分の気持ちをぶつける事が得意ではない。たぶん他のやつらより少しだけ勇気がいるのだろう。
囁やかれた消えるようなカカシの声に胸が締め付けられた。
「うん」
暫くそのまま背中を撫でているとはっきりとした声が返ってくる。
「やだ」
「わかった。しない」
カカシの平常へと戻っていく鼓動のリズムに合わせて、睡魔が襲ってくる。ふわふわと現実と夢を行き来しているようだった。
「本当は見合いもしちゃ、いやなんだからね」
「んー…」
綱手様への弁解方法に思考を巡らせようとして、何度か意識を持っていかれ、結局は何も考えられないまま眠りに落ちた。
「俺をオビトのお嫁さんにしてよ」
耳に残るカカシのセリフが現実のものか、既に夢の中だったのか判断がつかなかった。