Darknessdarkness


***

3
カカシに会える。
その事実が酒も飲んでいない頭を痺れさせていた。
ドレスの上にコートを羽織ったアンコに、引き摺られるようにして歩く。
「や、やっぱり今度にする」
腕を引くアンコは振り返るとオビトの顔をみて面白そうに笑っている。
「アンタって…」
「なんだよ」
腕を離したアンコに背中を叩かれる。
「店にいた時とは別人みたい。そんな顔してたら、カカシに食われちゃうよ」
「へ?」
「まったく、一昔前の女子高生みたいな事言っちゃって…あーやだやだ。ほら、行くよ」
バーに行つくと、カウンターでウイスキーを傾けるカカシを見つけた。他にも客は居るのに、不思議とカカシに視線が吸い寄せられる。
「カカシ、お客さん連れて来たよ」
白いスーツを着たカカシは、見慣れた写真の表情とは違う冷やかな眼差しでこちらを見た。見て、少しの驚きの後、さらに瞳の温度を下げた。
会ったら言わなければと思っていた言葉が白くボヤけていく。
「アンコ…とオビト?何、二人はどういう関係な訳?」
訝しむカカシの目には、自分を介抱してくれた時の優しさは無く、ただ剣呑さが浮かぶ鋭い瞳に思わずたじろぐ。
「ただの客だよ。アンタに会いたいってさ」
その瞬間、カカシの表情がふと緩む。
「わざわざ探してくれたの?嬉しいね」
「…この間の礼は言わせて貰う」
「じゃあさ、また抱き枕になってくれない?俺、一人じゃ眠れなくて」
これがタラシのテクなのか、それとも本心からなのか…。
「とりあえず、座んなよ」
オビトの腕を引き寄せると後ろにいるアンコに手を振る。
舌を出したアンコが、扉のバーテンに手をあげ姿を消した。
「…で、なに?」
「や、だからお礼を…」
「じゃなくて、何飲むの?」
「…おんなじのでいい」
「シカマル、同じのちょうーだい」
「へいへい」
「そんなに緊張しなくても取って食いやしないから、安心してよ」
優しくほほ笑むカカシを直視できずに視線を泳がせる若頭。
「あの日も勝手に逃げちゃうし…、あんなに急いで帰んなくてもいいじゃない」
「起きて…たの…か」
にっこりと目を細めたカカシ
「かっこよく撮れてた?オレの写メ」
「写メって…お前」
決まりの悪さに目線を逸らすオビト。
「寝顔も良い男すぎて惚れちゃった?…流石に少しびっくりしたかな」
「…名前が聞けなかったから、名刺代わりに撮っただけだ」
「別にいいのよ、いくらでも。俺、撮られ慣れてるから」
余裕の笑顔、その横顔すら確かに綺麗で、ムッとする。
「この人に関わると碌な事無いっすよ」
コトン、とオビトの前にウイスキーが置かれた。
「ちょっと、失礼な事言わないでくれる?」
「忠告はしましたからね、あとはご自由に」
「ご自由にだって♡」
「……」
ちょこちょこ話しかけてくるカカシに横目で視線を返しながらも、黙って酒を舐める若頭。
しかしまだ完治していない身体に酒が効いて、悪酔いしてしまう。
「気持ち悪い…」
「あらら。うち近いから、休んでいきなさいよ」
耳にしたカカシの悪い噂がふと頭をよぎるも、判断力が低下した頭では何も考えられず、抱えられるように店を後にする。
(悪い奴じゃない…筈。)
それを「あーあ」と微妙な表情で見送るバーテンシカマルであった。

マンションに着くなり玄関に倒れ込む若頭。
「…吐く」
「わ、ちょっと、吐くならこっち」
再びカカシに引き摺られてトイレへと連れていかれた。
「…う。…っ」
便器に向かって正座し微動だにしなくなる。
「もしかして、吐けない子?」
カカシに背中をさすられ、苦しさに涙が零れる。
「呑めないなら呑めないって言わなきゃ」
カカシのつけている香水の匂いがして、背後から抱えられるような体制にたじろぐ。
「口、開けて」
言われるままに開けた咥内にカカシの指が侵入してくる。
「…ふぐっ」
(うーん。ヤバイね、このビジュアル)
そっと上顎を撫でると、閉じられた瞳から新たな涙が零れた。
「はい、大丈夫だからねー、いくよー」
カカシの声と共に喉元まで長い指が押し込まれた。


「あー、スッキリした…」
「服、汚れちゃったね。シャワー浴びて来なよ。洗濯しとくから」
「…悪りぃ」
「くすっ。もっと酷い客いっぱいいるから」
「ジーパンは洗わなくていいから。ビンテージだから」
スパッと下着だけの姿になった若頭は、まだフラフラとふらつく足でバスルームへと向かう。
背中には炎を纏った昇り龍の和彫り。
(若頭って自覚あんのかね…まったく。っと、これは知らない程だった)
「着替え、置いとくね」
「風呂、サンキューな」
「ん、おいで。髪、乾かしてあげる」
読みかけの本を置きながら、手招きされベッドに腰掛けたカカシの下に座る。
「髪くらい自分でやる」
「いーから、いーから酔っ払いさんは寛いでて」
「…」
ゴウっと音を立て始めたドライヤーにオビトの声は掻き消された。
温かい風と、カカシの指に頭を撫ぜれる感覚に、ゆらゆらと夢心地になってくる。
抜けきっていないアルコールがオビトの目蓋を重くした。またカカシの香水の匂いがして、唇に柔らかいものが触れた。
キスだと認識するよりも早く、カカシの舌が唇を撫でてきた。
オビトが鈍い思考でいつ、ドライヤー止めたっけ…と考えている内に、視界が揺れ天井を背負ったカカシに見下ろされた。
力の入らない腕を上げるとすぐに床へと戻されてしまう。
「俺も酔ってるから勘弁して、ごめんね」
カカシの怪しく光る瞳にマズイと思ったが触れてくる手が心地良くて抵抗できない。
背中に感じるのは、やわらかいベッドの感触。思考の働きは不安定だ。
まだ湿る黒髪を撫でる掌の優しい動きにゆっくりと瞼が重くなって、しかし次の瞬間、同じ掌が強く頭部を押さえ付け、心地良さに微睡んでいた心臓が激しく警鐘を鳴らす。
女みたいに組み敷かれている状況に無性に腹が立って、もう一度、今度は覆い被さる体躯を殴るように、強く押し返した。
「どけ」
ふらついた拳でも、いくらかは効いたのだろう、カカシが眉を顰めて小さく呻く。
それでもたじろがない体勢に、カカシを睨むように見上げて、もう一回、次は鳩尾にでも入れてやろうかと腕を浮かばせると
「…大人しくしててくれれば良いのに」
溜め息と共に低い声が降って、片手でいとも簡単に両腕を束ねられてしまう。
「暴れないでよ、良くしてあげるから」
耳元に響く音に背筋が震えた。未だ残るアルコールの所為か、僅かに劣る対格差の所為か、いくら力を込め身を捩ってもカカシの手を振り解けない。
そうしている間にも、カカシの舌がじっとりと耳を嬲る。
ぴちゃぴちゃと態とらしく立てられる音に、奥を犯すような舌先の感触に、鳥肌が立って余計に力が抜けてしまう。
(まずい、どうすれば。)
回らない頭で理性が必死に逃げ道を探る中、本能が思考に歯止めを掛ける。
(でも、気持ちいいかもしれない…。)
自然に瞼が閉じて、与えられる刺激に意識を奪われる。
カカシの吐く息が鼓膜に反響して、その度にびく、と身体が動いた。
「オビト、勃ってるね」
カカシの掌が、ゆるくもたげ始めたそこを撫でる。
「触るなっ」
「だいじょーぶ、俺も勃ってるから」
そう言うとカカシは固くなったそこをオビトの下半身に擦り付けた。
今まで何度か死にかけたが、これ程身の危険を感じた事はないと思う。その感触に、悪い予感しか浮かばない。
「抜いてあげる」
俺のも後でしてね、と軽い口調で付け足すと、借り物のスウェットがあっさりと脱がされた。
「ねぇ、背中の入れ墨…いつ彫ったの?」
下着の上からカカシの手に包まれ、反射的に脚を閉じると、下半身を横抱きにされた。
「覚えてねぇ…ッ!手ェはなせっ」
振りほどく程のチカラが出ず、唯一保てる強い口調でカカシを戒める。
「ちょっと位なら痛いの平気?」
優しく包んでいただけの手が、ぎゅっと力を込めてくる。
「んっ!」
身を丸めたオビトの耳元でカカシが笑った。
「…痛い方が好きとか?」
「…痛ぇのは好きじゃねぇ」
パッと離された手に安堵するも、今度は後ろから下着をずり降ろされた。
「へー、お尻まで続いてる。これ、痛かったんじゃない?」
「はっなせって」
「暴れないの」
ぺちりと軽く臀部を叩かれ、そのまま下着の中を滑ってきた手に引っ掛かっている前も引き下ろされる。
外気に晒された起立を熱い手のひらに直接触れられて、ジンと身体の真ん中が痺れ身体の力が抜ける。
もがく脚をカカシの長い脚が簡単に抑え付けてその重ささえも心地良く感じて、くったりと力を失ったオビト両手からが解放された。
背中から潜り込んで来た手が肌を撫でながらシャツを捲り上げていく。
彫られた龍をカカシの指先がなぞり、不規則に強張るオビトの身体を後ろから抱きしめた。
「バックでしたら、気持ち良さそう」
いつの間に取り出していたのか、尻の割れ目に生々しい感触を擦り付けられ息を飲んだ。
「…ッ…マジでヤメろっ…変態…ッ」
「うそ、気持ちいいの好きなんでしょ。さっきから腰揺れてるよ」
「お前が…変な触り方、するからだろッ」
「ふふっ…オビトの良いところ当ててあげようか?…ここと、…ここ」
「…ッ!…あっぁ」
「かっわいー…声」
カカシの鼻先が地肌を擽る。
オビトの匂いをいっぱいに吸い込み、ゆっくりと吐き出す息が震え、どんどん荒くなって来ている。
(ヤバイ、どうしよう。逃げらんねぇ…)
密着する程に濃くなるカカシの香水と心地良さに何も考えられなくなる。
「それに、こんなところにキスマークなんか付けられちゃって…初めてって訳じゃないんでしょ?」
ちゅっと首の後ろに優しく触れた柔らかい唇。
(…あんの、くそじじぃ)
「妬けちゃう」
「そんなんじゃねぇ…し、お前に妬かれる筋合もねぇ…ッ」
首筋に這わされる舌の感触も、下半身の際どい場所を探るように上下に擦り付けられる熱い感触も、それはカカシの興奮を表すように忙しなく、オビトはひたすら身を捩る。
しかしいくら逃れようとしてもカカシの全てがオビトの身体を追い掛けて、早く溺れちゃえば良いのにと囁くように、刺激を与え続ける。
「可愛い声して、可愛くない事言わないでよ」
「あぁ…ッ」
背後から回された手が再びオビトの昂りを握り締めるように包み込み、意図せず声が漏れてしまう。
「オビトを俺で一杯にしたい…俺だけ見ててよ、ねぇ」
切なげに響く低い声が鼓膜に注がれて、ぞくりと鳥肌が立った。
カカシの掌が、後ろを行き来する固い感触と同じリズムで上下する。
「あ…ッ、や、ん…ぃやだ…ッ」
「嫌じゃないでしょ…、ああすごいよ、ピクピクしてる。イキそう?」
乱暴な手の動きがオビトの意識を追い詰めて、訳が分からなくなって、問い掛けにコクコクとただ必死に頷く。
「いいよ、出しちゃいな」