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「オビトお帰り!」
嬉しそうに、まるで犬かという勢いで飛びついてきたカカシに嬉しさを感じつつ、まだコチラの世界のカカシが戻っていない事を確認する。
「ただいま」
後ろ手に見合い写真を靴棚の上に乗せて、カカシを抱き上げるとエプロンを着けている事に気付いた。ひらひらなヤツ。きっと暗部の奴らの入れ知恵だろう。
「飯作ってたのか?」
「うん。オビト食べれる?」
そういえば、カカシからサンマの焼けた良い匂いがする。
「あぁ、腹ぺこ」
言ったと同時にぐぅと腹の虫がなり、カカシが笑い出した。
その笑顔の可愛さに思うより先に手が出る。カカシの口布に指を掛け、現れた弧を描く唇に唇を重ねる。
突然のキスに身を固めた様子のカカシだったけれど、徐々に腕の中で力が抜けていくのが分かり、いじらしく思った。
唇が触れるだけの口づけでは物足りず、角度を変えて薄い上唇を食んで味わう。
(もうちょっと、もうちょっとだけ…)
じょり。
「オビト、ひげ痛い」
カカシの手のひらに顎を押し退けられる。
「わりぃ」
「味噌汁、温めるね」
腕から逃げ出したカカシが、台所へと向かう。後ろから見える耳が赤くて照れているのがバレバレだ。
顎をさすると長期任務で放置していた髭がじょりじょりと音を立てる。
(うーん。やっぱ何か可愛いんだよなぁ。あいつあんな可愛かったっけ…?)
13歳の頃のカカシを思い出そうとしても、眉毛を吊り上げ怒鳴っている顔しか思い出せない。
話を聞いたところによると、アチラの世界の俺はもう亡くなっているらしい。
(享年13歳とかどんだけ英雄なんだよ、俺)
それでか、カカシはコチラ世界に来てからというもの俺の側から離れず一緒に暮らす事になってしまった。
味噌汁をよそうカカシを見て、ガキの頃には俺よりもデカくなるとは思いもしなかった三十路のカカシに思いを馳せる。
(こいつもあんなにでっかくなっちまうのかな)
一瞬、ひらひらのエプロンを付けた本当のカカシを思い浮かべてしまい背筋の毛が逆立った。
「風邪でもひいた?」
ぶるぶると頭を振っているとカカシが心配そうに声を掛けてきた。
「いや、違う。って、また茄子の味噌汁か」
「要らないなら飲むな」
「レパートリー」
「スッポン」
「アレはもういい」
「…何が好きなの?」
「うーん、あー…好きなのは茄子の味噌汁だけどよ」
「じゃぁいいでしょ。今日は豆腐だけ入れて豆腐味噌汁にしとく」
「ちゃんと茄子も入れろよ」
「もう!はい。お風呂も入れてくるね」
パタパタと動き回るカカシを目で追いかけながら、用意してくれた食事にありつく。
(お前は俺の嫁か。嫁か…、嫁なぁ…、カカシが居たらいらねぇなぁ)
不毛な思考をぐるぐると繰り返しながらも、カカシの作った料理に身体中の血液が胃に持っていかれ、食べ終わる頃には上瞼と下瞼がイチャパラ状態だった。
「オビト、オビト、眠いの?お風呂は?」
カカシに揺さぶられて椅子の上で腕を組み、天井を向いていたオビトの顔がガクガクと揺れる。
「無理。寝る」
「…匂うよ?」
遠慮がりに首を傾げるカカシの頭を小突く。
「早く言えよ。入るわ」