Darknessdarkness


注意書き *** 繭ゆんと遊んでる「カカシがホストでオビトがうちは組若頭」なパロ。色々捏造。許せる心の広い方のみどうぞ!

ちょろちょろ更新してきます。



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1
「いってぇ…」
軋む身体を引きずるようにして路地に身を隠した。闇雲に駆け抜けたネオン街の外れで、身内の人間は無事だろうかと思案する。
生暖かい物がこめかみを垂れて来て、指先で触れてみる。薄暗い中でも、それが血である事は間違いないようだった。
「まずいな…」
貧血で視界が霞み、此処が何処か判断がつかない。
袖口で拭き取ると身体を壁に預けてため息をついた。頭も背中も全身がギリギリと痛む。
痙攣する瞼にイラつき、瞳を閉じるとそのまま気を失った。

人通りの多い路を避け、BARパックンへの近道である裏路地に入へと入る。
道の脇に積まれた段ボールから人の足が生えている事に驚き、道を変えるかと思ったものの興味本位で、影を覗いてしまった。
うちはオビト。
この界隈では知らぬ者はいない、この辺りを仕切っている「うちは組」の若頭だった。
うな垂れた頭からは鮮血が滴っている。
(う〜ん。どうしよ…めんどくさいなぁ)
心の中で愚痴てみても、身体は既にオビトへと手を伸ばしていた。
面倒事に巻き込まれないよう、遠目にしかみた事はなかったが間近で見ると身体は幾分も小さく見える。
血の気を失った顔に手を近づけると、呼気に触れる事が出来た。弱々しいものの規則正しいそれに、病院に連れて行く程ではないだろうと踏む。
傷の手当に必要な物は近くの24時間営業の所で手に入るだろう。傷の所為で熱が出るかもしれない。念のために鎮痛剤か解熱剤も…そこまで考えて、話した事もない奴にそこまでしてやる義理もないだろうと苦笑する。
抱え上げた身体は驚く程に軽かった。本当に自分よりも一つ歳上なのだろうか。
(やくざって位だから薬でもやってるのかな…面倒だな)
マンションに着くまでの間に、どうにか面倒事と関わらないで済むようにと、手離す理由をアレコレと考ていた。

暖かく肌触りの良いモノに包まれている事に違和感を感じて目が覚めた。白っぽい天井に日が反射している。
身体を起こそうと力を入れた途端にズキリと背中が痛んだ。
「―…ッ」
途端に隣から人の気配を感じて身体を強張らせる。
「起きた?」
聞いた事のない声に、痛む身体に鞭を打って今度こそ起き上がる。
「誰だっ」
「ちょっと急に動かないでよ。傷、手当はしたけどまだ寝てな」
言われて見ると全身包帯やらガーゼやらで覆われていた。
一瞬で覚醒前の記憶が蘇る。慌てて今が何時で、此処は何処なのかと尋ねた。
男は、左頬に長い切傷の跡が奔っている。堅気ではなさそうだが、オビトの知らない輩だった。
「どこの組だ」
「…3年2組?」
素っ頓狂な答えに時が止まる。
「あ、組みには入ってません」
不意に身を起こした男が手を伸ばして来たので、条件反射で払いのける。はずが、手首毎掴まれてしまい、今度は反対の手が額に当てられた。
「熱出てきたかもね。ちょっと待ってて」
ベッドから出た男はペットボトルの水と薬を持って戻ってくる。
「…帰る」
こうしては居られない。一体あの後どうなったのか。衣服を身につけていない今、携帯は確かポケットに入っていた筈だ。
「俺の服は…?」
「上着は血だらけだったから、洗面所。携帯?それなら此処に」
枕元に置かれていた携帯を指差す。
カーテンの隙間から漏れる日差しに、くっきりと浮かびあがった男の顔は眩しい程に美しかった。
ドキリと魅入っている内に、携帯を取り上げられてしまう。
「まずは、薬飲んでね」
鎮痛剤の類いだろうか、受け取った白い錠剤を水で流し込むと少しむせた。
背中に回された手が、傷を避けながら優しく撫でてくる。
「まだ帰らないでよ」
甘えたような声にゾワリとした。
背中を這う指先が、別の意図を持っている様な気がしてくる。
「お礼貰ってない」
「…ッ、どこ触ってる…!」
「俺も善人じゃないから、ね」
熱っぽい視線で近づいてくる男を押し退ける。
「ばっ!やめろ」
「はいはい、暴れないの…」
抱き締められたまま、ふとんの中に引きずり込まれてしまう。
「…抱き枕位なら安いもんでしょ」
「…あ?」
下世話な事を想像していた気恥ずかしさに乱暴な返答が口から出た。
「名前なんていうの」
「……」
「起きたら教えてよ、おやすみ」
組の事が気になっていた筈なのに、男の程良い体温に疲れ切った身体は怠く、頭の中も現実感が湧いてこない状況に夢を見ているような気分だった。
「……オビト」
「オビト…変わった名前だね。おやすみ、オビト」
自分の名を呼ぶ名も知らない男の声が酷く心地よく、ゆっくりと目を閉じる。

ふと、ベッドが揺れる感覚に片目を開く。ギシリと軋んだスプリングに動きを止めたオビトに、また寝たふりをする。
腕の中からすり抜ける温もりを引き留めたい気持ちを抑えて、様子を伺う。極力振動させない様にベッドの上を移動する様が微笑ましかった。
「マジかよ…」
携帯を確認したらしいオビトの呟きが聴こえる。足音を立てないように、廊下に出て洗面所を探しているらしい。時計を確認すると13時を少し過ぎた辺りだった。
(俺もそろそろ起きるかね…)
戻ってくる気配に、再び目を閉じた。
近寄ってきた足音と共に、瞼の裏が翳る。iPhoneのシャッター音が聴こえて、思わず眼を開きそうになる。
ぱたぱたと去って行く足音に扉の音が続く。コンクリートを蹴る音が聞こえなくなるまで耐えて、身を起こしニヤつく頬をひと撫でした。
「…なにそれ、可愛いすぎでしょ」