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「カカシ、オレもそろそろ働こうかと思ってるんだが…」
あの日以来日課となった「ただいま」のキスの後の事です。
すでにオビトが戻ってきてから1年が過ぎようとしていました。
いつも一緒にいるので気づきませんでしたが幾分か身長も伸びたようです。
顔の半分を覆い隠してしまっている髪の毛を優しく耳にかけてあげながら、真剣なオビトの表情に負けて応えます。
「うん。わかった。明日相談してみるよ」
早く大きくなってとは願っていたものの、いつまでも家の中に閉じ込めてもおけないという現実にカカシが一人溜息を漏らします。
「嫌なのか」
不安げなオビトの問いにカカシは笑って違うよと答えます。
「こうしてオビトのキスで迎えられるのも少なくなるのかと思うとちょっと淋しいな…って思っただけ」
「…なんだ、そんなことか。バカカシ」
少し照れたように笑うオビトでしたが、ふと思いついたように口を開きました。
「帰ってきた時だけじゃなくて、カカシのしたい時にすればいいだろ」
「え?いいの?」
「…変なやつ。飯出来てるから早く来いよ」
思いがけずキスのお許しを貰ったカカシ。実は未だに遠慮してしまって自分からキスをした事はありませんでした。
ご飯を食べてる間もオビトの唇ばかりに目が行ってしまいます。
お許しを貰ったもののきっかけが分からずにキスする事が出来ないまま時間だけが過ぎました。
「風呂空いたから入っていいぞ」
洗い物をしていたカカシに先にお風呂に入って来たオビトが話しかけました。
近寄られ清潔な石鹸の香りがカカシの鼻をくすぐります。
少し濡れたままの髪から滴れた雫を首に掛けたタオルで拭く姿に、カカシの胸が早鐘を打ち始めます。見ないようにしようと意識してもオビトの唇に目がいってしまうのを自分では止められません。
「…おい。聞いてるのか?」
「え。あ、ごめん。なに」
「だから、風呂からあがったら、ちょっと髪切ってくれよ。これじゃぼさぼさ過ぎるだろ」
「…可愛いと思うけど」
「…アホか。いいから頼む」
またタイミングを逃してしまったカカシは、とぼとぼと一人お風呂に向いながらもキスの仕掛け方について思考を巡らせていました。
(キスって難しい…)
湯船の中で自分の唇を触り、先ほどのキスを反芻します。最近ではオビトからされる触れるだけのキスに、自分が物足りなさを感じている事に気付いていました。
(もっと、いっぱいしてもいいのかな…でも、嫌がるかなぁ…)
そのままズルズルと頭まで湯船に沈みました。
すっかり逆上せてしまったカカシがゆでだこのようになりながらフラフラとリビングへ戻るとオビトはソファの上で本を読んでいました。
「お。長かったな…って、カカシ大丈夫か」
読みかけの本を横に置くと、心配そうに声を掛けます。
「はは…ちょっとのぼせちゃった」
隣に腰掛けたカカシに真っ赤だぞと言いながらオビトが頬に手をかけます。その手はひんやりとしていてカカシの火照った頬を冷やしてくれました。
覗き込むように見上げる真剣な眼差しのオビトにカカシの心臓が今度は音を立て鳴り始めました。
(今がチャンス…!?)
「オビト、キ、キスしていい?」
ちょっと声が上擦りました。本物のオビトの前ではお風呂で考えたカッコイイセリフは消し飛び、情けない誘いになってしまいます。
恥ずかしさに自分の頬の火照りがのぼせだけでは無い事を感じました。
「いちいち聞くなよ。恥ずかしいやつ…」
そう言いながらも瞳を伏せるようにしてオビトがと唇を差し出してきてくれます。
「…ん」
重ねあうようにして触れている唇がもどかしく、腕に添えようとした手は今にも震えそうです。ギュッと力を込めてオビトを抱きしめました。
少しキツめの抱擁に自然と顎のあがったオビトの表情が、カカシの劣情に火をつけます。
「ねぇオビト…もっと、してもいい…?」
遠慮がちに発せられたカカシの言葉の意味が分からずにオビトの瞳はキョトンとしていました。
答えを待たずに近づいて唇を舐めます。
べろりと触れた熱い粘膜に驚きのあまり固まってしまったオビトは、そのまま唇を食まれてしまいます。
ビリビリと甘い痺れが身体に広がり、慣れない濡れた感触にオビトがいやいやをするように首を降りながらカカシの名前を呼ぶと、開かれた隙間から口内にもカカシの舌が伸びてきます。
カカシの両手に頬を包まれ、瞼を上げると熱を宿した瞳がオビトを射抜きます。
「オビト…、オレの好きって、こうゆう事したい好きなんだ…もしオビトの好きと違うなら言って。今ならまだ止めれるから」
近すぎて揺れる瞳に自分しか映っていない事がどうしようもなくオビトの胸を締め付けました。
「…バカカシ。子ども扱いすんな…」
慣れて無いだけで、お前とするのは嫌じゃないとというオビト。
再び重ねられた唇から逃れる事も出来ずに翻弄されてしまいます。
いつの間にかソファの上ですっぽりとカカシに圧し掛かられて、身じろぐ事も出来ません。
「舌だして…」
唇を引っ付けたまま掠れた声に求められるまま舌を伸ばすと音を立てて吸われました。
口内に引きずり込まれた舌を唇で扱かれ、飲み込みきれず溢れ出る唾液はどちらのものなのか分からない状態です。
カカシの頭が上下する度にぢゅっぢゅっという耳を塞ぎたくなるような音が部屋に響き、二人しかいないもののオビトは居たたまれない気持ちになります。
「…ぬぅぬぅすぅっ…」
ぬるぬるすると伝えたかった言葉は、舌が捉えられたままでは上手く出来ません。過ぎる刺激にオビトの眼には涙が浮かんでいました。
もう一度強く吸うと、唾液を滴らせながら名残りおしそうに唇が離れます。
「うん。気持ちいい。美味しい」
カカシはうっとりとした表情でオビトを見下ろし、どうしよう止まんないよ、とオビトの唇に貪りつきました。
オビトにはこれが気持ちいいという事なのかもはっきりとわかりませんでしたが、フーフーと震えるカカシの息遣いに応えようと必死で痺れる舌を絡ませました。